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財団の登記
財団の登記とは、経営のための土地・建物・機械などの物的施設、および特許権などの工業所有権を一括して、その上に抵当権を設定する制度をいいます。財団には次のようなものがあり、それぞれ1個の不動産とみなされます。
1. | 工場財団 物品の製造等の工場の施設としての土地、建物、機械、器具その他の物的設備のみならず、そのための地上権、賃借権、工業所有権又はダム使用権等をもって組成され、抵当権の目的とするためその所有権保存の登記によって成立する財団。 |
2. | 港湾運送事業財団 港湾運送事業に関する上屋、荷役機械、はしけ、事務所及び一般港湾運送事業等の経営のため必要な器具等のほか、地上権、地役権等をもって組成され、抵当権の目的とするためその所有権保存の登記によって成立する財団。 |
3. | 道路交通事業財団 自動車、土地、機械、器具及び軽車両等のほか、地上権、地役権等をもって組成され、抵当権の目的とするためその所有権保存の登記によって成立する財団。 |
4. | 漁業財団 定置漁業権又は区画漁業権、船舶、漁具及びその他の物的設備のほか、地上権、水面の使用に関する権利又は工業所有権等をもって組成され、抵当権の目的とするためその所有権保存の登記によって成立する財団。 |
5. | 鉱業財団 鉱業権、土地、機械、器具及びその他の物的設備のほか、地上権、賃借権又は工業所有権等をもって組成され、抵当権の目的とするためその所有権保存の登記によって成立する財団。 |
6. | 観光施設財団 観光施設に属する土地、機械、動物、植物、展示物、船舶、車両及び航空機等のほか、地上権、貸借権、温泉を利用する権利等をもって組成され、抵当権の目的とするためその所有権保存の登記によって成立する財団。 |
財団の登記
工場財団とは、上記1.のように、工場に属する不動産、動産あるいは無体財産権など工場設備一式を法律上1個の不動産として登記するもので、この登記をした財団を対象として、抵当権を設定をします(6か月間抵当権の設定がないことは財団の消滅原因とされています)。
この制度ができた背景には、金融機関から融資を受けるにあたり、個々の機械や建物をバラバラに評価するよりも、これらを直ぐにでも操業できる一体のものとして評価する方が、担保としての価値が高くなるという事情があります。
したがって、工場財団は所有権および抵当権の対象とすることができるにとどまり、他の民法上の物権の対象とすることはできませんが(抵当権者の同意を得れば賃借権の対象とすることは可能)、工場財団について売買や相続・合併があれば権利は移転し、また、工場財団について差押え、仮差押え又は仮処分の申立て又は申請をすることは何ら妨げられません。
財団の組成物件
1.工場に属する土地および工作物
2.機械、器具、電柱、電線、配置諸管、軌条その他の附属物
3.地上権
4.賃貸人の承諾あるときの賃借権
5.工業所有権
6.ダム使用権
これら以外の工場設備について抵当権の効力が及ぶかどうかは、民法の一般原則に立ち返って判断することになります。
また、財団の組成物件とするためには、上記の各物件について、更に次の各要件が満たされている必要があります。
1.他人の権利の目的でないこと
2.差押え、仮差押え又は仮処分の目的でないこと
3.既登記・既登録であること
4.他の財団に属さないこと
処分の制限
工場財団の組成物件として登記されたものについては、財団の単一性保持のため、個別にこれを処分することが制限されます。例えば、登記・登録された物件については、個々の物権の登記簿や登録原簿に、当該物件が工場財団に属した旨が職権で記載され、以後はこれを譲渡したり、又は所有権以外の権利や差押え、仮差押えもしくは仮処分の目的とすることが禁止されることになります。
工場財団の設定
工場財団についての所有権保存の登記は、財団の成立要件とされています。
登記の管轄については、工場が数個の登記所の管轄区域にまたがっているとき、または財団を構成すべき数個の工場が数個の登記所の管轄区内に存在するときは、工場の所有者において、登記手続上もっとも便利だと認められる登記所をあらかじめ選定したうえで指定申請をすることで、法務局長または地方法務局長の管轄指定を受けることができます(ただし、数個の法務局または地方法務局管内の登記所の管轄区域にまたがるときは、法務大臣の指定を受けなければならなくなります)。この管轄指定を受けたときは、管轄指定書は、登記申請の添付書類になります。
申請手続
申 請 人 | 工場の所有者(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき3万円(登録免許税法別表第一・五・(一)) |
申請の受付から登記の実行まで
登記・登録のある組成物件については、登記官において、職権で、他の登記所・官庁に対して通知がされ、財団の所有権保存の登記申請が行われた旨が各登記簿・登録原簿に記載されます。
しかし、財団を構成すべき機械・器具等の動産のうち、登記・登録の制度がないものについては、他人の権利の目的とされていないことを別の手段によって確認しなければなりません。具体的には、登記官において、職権で官報公告による権利申し出の催告をすることとされており、一定の期間内に権利の申し出がないときは、その権利は存在しないものとみなされます(申し出があったときは、その旨が申請人に対して通知され、申請人の方で当該申し出が理由のないことを証明するか、申し出の取消しがない限り、財団の所有権保存の登記申請が却下されてしまいます)。
登記の却下事由が存在せず、受理すべきものと認められたときは、次の時点のいずれかで登記が実行されます。
工場財団の変更
(1)組成物件の表示変更
申請手続
申 請 人 | 所有権登記名義人(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき6000円(登録免許税法別表第一・五・(七)) |
(2)組成物件の追加
具体的事例としては、財団成立後に工場に備え付けた新設物件を当該財団の組成物件として組み入れる場合などが考えられます。
財団の組成物件に新たに物件を追加するときは、工場財団目録の記載の変更登記をします。財団抵当の登記がされているときは、抵当権者全員の同意書が必要となります。
なお、組成物件の追加の登記申請がされると、財団の所有権保存の登記申請の場合と同様に、登記官において、物件の種類に応じ、他の登記所・官庁への通知または官報公告による権利申し出の催告が行われます。
申請手続
申 請 人 | 所有権登記名義人(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき6000円(登録免許税法別表第一・五・(七)) |
(3)組成物件の分離
具体的事例としては、設備改廃のために撤去する場合とか、機械・器具等の動産が即時取得されたり、土地が時効取得されるなどして、第三者の所有に帰することとなった場合が考えられます。
財団に属したものが当該財団から分離したときは、工場財団目録の記載の変更登記をします。財団抵当の登記がされているときは、抵当権者全員の同意書が必要となります。
申請手続
申 請 人 | 所有権登記名義人(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき6000円(登録免許税法別表第一・五・(七)) |
(4)組成物件の滅失
財団に属した組成物件が滅失したときは、財団目録の記載の変更登記をします。財団抵当の登記がされているときは、抵当権者全員の同意書が必要となります。
申請手続
申 請 人 | 所有権登記名義人(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき6000円(登録免許税法別表第一・五・(七)) |
(5)財団の表示変更
財団の表示は、登記簿の表題部において、工場ごとにその名称および位置、主たる営業所並びに営業の種類を記載することによって明らかにされており、記載内容に変動が生じたときは、その変更の登記を行う必要があります。
なお、工場を新設し、その新設工場に属する物件を財団の組成物件として追加するときは、財団目録の記載の変更登記の申請と同時に、財団の表示の変更登記をも申請すべきものとされています(昭45.8.20民三200号回答)。
申請手続
申 請 人 | 所有権登記名義人(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき6000円 |
工場財団の分合
(1)工場財団の分割
数個の工場につき1個の財団が設定されている場合に、その1個の財団を分けて数個の財団とすることを財団の分割といいます。財団の分割にあっては、例えば、抵当権が設定されているA工場財団を分割して、その一部をB工場財団としたときは、抵当権はB工場財団については消滅するので、財団の余剰担保価値を効率的に活用することができます。
財団の分離をするためには、次の要件を満たしていることが必要です。
① 分割すべき財団が数個の工場について設定されたものであること
② 分割後の特定の財団を除く他の財団につき抵当権の消滅を抵当権者において承諾すること
なお、財団の分割は、分割の登記をすることによって効力が生じるものとされています。
申請手続
申 請 人 | 所有権登記名義人(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき6000円(登録免許税法別表一・五・(七)) |
(2)工場財団の合併
数個の財団のうちの1個の財団のみが抵当権の目的とされているような場合、財団の合併をすることにより、その財団抵当の効力を合併後の財団の全部にまで及ぼすことができます(土地や建物のような一般不動産の場合と同様に、抵当権の目的とされていない財団について、共同抵当権を設定する方法もありますが、工場財団の合併に比べて法律関係が複雑になってしまいます)。
財団の合併をするためには、次の要件を満たしていることが必要です。
① 合併しようとする数個の財団が同一所有者に属するものであること
② 所有権及び抵当権の登記以外の登記が行われていないこと
③ 合併に係る数個の財団のうち、2個以上の財団が既登記の抵当権の目的とされていないこと
なお、財団の合併は、合併の登記をすることによって効力が生じるものとされています。
申 請 人 | 所有権登記名義人(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき6000円(登録免許税法別表一・五・(七)) |
工場財団の移転
財団所有権の移転手続について工場抵当法に特別な規定はありませんが、財団の組成物件の総括譲渡が行われたときは、実務上も、当該財団所有権の移転登記をすることができるとされています(昭25.7.11民甲1904号回答)。
申請手続
申請人 | 登記原因が 売買等の場合 | 従前の所有者と新所有者 (共同申請) |
登記原因が 相続・合併等の場合 | 相続人その他の一般承継人 (単独申請) | |
登録免許税 | 納付する必要なし (登録免許税法に規定がないため) |
組成物件である個々の不動産についてする登記
工場財団の所有権移転登記後、個々の組成物件についてする所有権移転の登記に関しては、登記インターネット(平成12年2巻12号)という雑誌に、東京法務局監修による相談事例が掲載されたことがあります。それによると、工場財団について「合併」を原因として所有権移転登記をした場合は、組成物件である個々の不動産の移転登記の原因は「工場財団の所有権移転(会社合併)」とし、登録免許税は課税価格の1000分の6になるものと考える、とされています。ただし、時期的には登録免許税の税率の改正前であり、また、あくまで当時の東京法務局の見解であるので、実際にこのようなケースにあたったときは、管轄する法務局に確認されることをお勧めします。
工場財団の消滅
工場財団は、次に掲げる事由がある場合に消滅します。その場合、財団の登記簿には工場財団が消滅した旨が記載され、表題部の登記事項が抹消されたうえで登記簿自体が閉鎖されます。
① 所有権保存登記の後、6か月以内に抵当権設定の登記が行われないとき
② 抵当権の登記の全部が抹消された後、6か月以内に新たな抵当権設定の登記が行われないとき
③ 工場財団の分割が行われて、その分割後の財団の一部につき、抵当権が消滅してから6か月以内に、新たな抵当権
設定の登記が行われないとき
申請による消滅
上記の事由がある場合のほか、財団の所有者の申請によっても工場財団を消滅させることができますが、次の要件を満たしていることが必要です。
① 抵当権の登記の全部が抹消されているか、または、工場財団の分割が行われて、その分割後の財団の一部につき抵
当権が消滅したものであること
② 所有権の登記以外の登記が行われていないこと
申請手続
申 請 人 | 所有権登記名義人(単独申請) |
登録免許税 | 財団1個につき6000円(登録免許税法別表一・五・(八)) |
参考文献:「工場抵当・財団抵当の実務」
津島一雄 著/商事法務研究会 発行
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